第2章 昔ばなし
初めて重なった唇に微かな甘い余韻を残したまま、携帯の着信音により離された体は、そわそわと落ち着かない。
もっと触れたい、
けど、触れられない。
そんなもどかしさを感じながらも柔造は、エレナにごめんな、と謝ると、ため息混じりに通話ボタンを押した。
柔造「………何やの。………金造。」
通話口から聞こえてくる弟の金造の声に苛立ちを深めながら、柔造は少し離れた位置にいたエレナを抱き寄せ、携帯を持っていない手を彼女の指に絡めていく。
「……柔造///?」
自分を覗きこんで来る大きな瞳は、とても美しく、見ているだけで色々な思いが溢れ出そうになる。
柔造「あぁ、なんや……その事かいな。丁度会うてるし、俺から伝えといたるわ。…………は?そら、無理や。あかん。」
電話の向こうではうっかりエレナといることを漏らしてしまったが故、金造が、エレナの声が聞きたい、と大騒ぎをしていた。
頭を掻きながら拒否をしている柔造を不思議に思ったエレナがその体を寄せ、通話口から漏れる声の主を探ってくる。
「___あっ!もしかして、金造と話してるの?私も話したいな~♪」
「………あかんて。もう切るし、また今度な。」
「えーっ何で?ちょっとくらい____きゃっ」
柔造から携帯を奪おうと手を伸ばしていたエレナの体がバランスを崩し、そのまま柔造の体に覆い被さるように倒れ込んだ。
そして、咄嗟に彼女を抱き締めた柔造は、自分の顔のすぐ目の前にエレナの顔があったことに驚き、顔を赤らめる。
柔造「__悪いんやけど、金造。俺、野暮用が出来てもーた。ほな、切るで。」ピッ
通話口の向こうでは急な柔造からの言葉に、金造は抗議の声を上げていたが、そんなものはお構いなしと言うように、柔造は目の前のエレナから目を離せずにいた。
「…………"野暮用"って、何……?」
エレナの言葉に含みのある笑みを返す柔造。
柔造「………そんなん聞く方が"野暮"やで?」