第2章 secret.1 契約
生ぬるい風が帰途につく彼女の頬をなでる。
辺りは暗く、所々にある街灯が夜道を微かに照らしていた。
いつもの夜道なのに何処と無く気味の悪い雰囲気が漂う中、彼女は真っ暗な空に浮かぶ明るい光を見上げる。
「満月だ…」
空に輝く大きな月。
しかしその光は何処か薄気味悪さを漂わせていた。
ブルッ…。
彼女の背筋が寒さからでは無い恐怖に震える。
まだ20時を過ぎたばかりの時間だが、人っ子一人いない夜道に恐れを感じたのかもしれない。
「はやく帰ろう」
ポツリと呟いて足早に彼女は夜道を急ぐ。
椿 蓮華(つばき れんげ)
高校2年生。
腰まである長い髪を揺らしながら、蓮華はふと足を止める。
「…こんなのあったっけ?」
そこにそびえ立っていたのは細部まで綿密にこだわられた洋館。
立派な門の中にあるその建物は、その佇まいとは反対に、長年使われていないようだった。
手入れをされていない広い庭には雑草ばかりで、お世辞でも綺麗とは言えない。
ふと蓮華が視線を上げた先にあった窓には洋館の古さには似合わない、真新しい真っ赤なカーテンがかかっていた。
…誰かいるのかな?
明かりは灯っていないが、そこだけ何か違う雰囲気を醸しだしている。
「!」
誰かの鋭い視線に貫かれた感覚。
蓮華は吸い寄せられるように先程の窓に再び視線を移す。
閉められたカーテンの向こうで赤く光る何か。
………目?
ぶわっ!!!!
その光を認識した瞬間、蓮華の体を黒い風が包んだ。
あまりに強いその風に、目を瞑って蓮華は両腕で顔を庇う。
そのまま強く引きずり込まれるような感覚と共に、蓮華は意識を手放したー…。