第10章 君に会いたい
「君に会いたい…?」
「うん。文学少女のゆうちゃんに添削してもらいたくて」
まだベッドの中にいる私に、先輩がノートを開いて差し出した。
書かれている言葉…ラブソングかな。
「珍しいですね。歌詞なんて記号だからどうでもいいっていつも言うてるのに」
先輩はバンドをやってる。
ギターを弾いてて、歌も作る。
かっこいいから超モテる。
モテて手が早くて優しいからセフレがいっぱいいる。
私もその一人。
ちゃんとした彼女がいるのかどうかは知らない。
「君って誰なんですか?」
先輩に尋ねてみる。
「君は…君!」
ベッドの上で、ノートの文字を目で追っていた私の顔を、先輩は覗き込んで指差す。
「ふふっ…みんなに言うてるんですか?」
私は先輩の顔を見上げて微笑む。
「えー? ゆうちゃんだけ…やで?」
先輩は私の唇に、唇を重ねる。
余計なことを言わせないために口を塞ぐみたいに。
大丈夫、私、言わない。
あなたのために。
じぶんのために。