第6章 ねぇどっち?後編
「あ、おはよ。良太」
「…おはよ」
いつもの朝、玄関を出た私を見て、良太がなぜか不機嫌そうに答える。
「どうしたの? 勉強のしすぎで疲れてるの?」
「…別に。何、その頭につけてるやつ」
良太が不機嫌なまま、私の髪につけてるリボンを指差す。
「これ? ピンでくっついてるんだよ。可愛いでしょ?」
私は自分でリボンを指差してニッコリ微笑む。
「別に普通。ゆう、口にもなんか塗ってるだろ」
「わかった? 薬用リップなんだけど、ちょっとだけ色付きなの」
すごいなぁ良太。女の子みたい。
「ふん。こっちは受験生なのに。色気づいちゃって」
良太が吐き捨てる。
良太、やっぱり勉強のストレスで機嫌悪いんだね。
気持ちはわかる。
「ふふ。去年、私が一生懸命勉強してるとき、良太はバスケばっかりしてたでしょ? 順番」
私の言葉に良太はますます不機嫌になる。
「だいたい毎朝、顔だけ洗って遅刻ギリギリに飛び出してきてたような女がさぁ…。最近は髪の毛いじって化粧して登校? なんか怪しくね?」
「な、何よ…。私だって女の子なんだから。電車だって乗るし、最低限の身だしなみは整えないと。
じゃあね、いってきまーす」
いつもの場所で良太と別れる。
良太は機嫌を直さないまま、手も振らないで中学校に向かった。
怪しいって何よ。
別に怪しまれるようなことなんてないんだから。
…
「おはよ、遠藤くん」
「おはようございます、田中さん」
電車を降りて、ホームで遠藤くんと挨拶する。
朝、駅から学校まで一緒に歩くのが、なんとなく日課になっちゃった。
私は遠藤くんの顔をじっと見てみる。
「…? 俺の顔に何かついてますか? いちおう洗ってきましたが…」
「ううん、なんでもない」
私は笑う。
遠藤くんは私の髪型変わったとか、リップ塗ってるとか、絶対気づかないんだろうなぁ。