第1章 好きって言って
「夏休み…キスしたとき。なんで直樹謝ったの?」
「それは…ゆうちゃん怒らせちゃったと思ったから…」
少ししょんぼりした様子で直樹が答える。
「私、怒ってないよ」
「そうなの?」
「私…あのとき…。
私、あのときね、直樹に好きって言ってもらいたかったの。好きだからキスしたって言って欲しかったの。私は直樹のこと好きだから」
私はバカだ。
こんなの、直樹が私のこと好きじゃなくても…
そういうことやりたいだけでも…
好きって言えばやっていいよってバラしちゃってるじゃん。
「そっか…。ごめんね…ゆうちゃん。俺、バカだから」
「だからー…。謝って欲しいんじゃなくて…好きって言って欲しいの!」
「あ、そっか。好きだよ、ゆうちゃん。大好き」
直樹はニッコリ笑ってそう言った。
本当、バカだ。
こんなの言わせただけじゃん。
「帰ろう」
直樹が私の手を握って言った。
「うん」
私は直樹の顔を見ないで頷いた。
顔は多分めっちゃ赤いし、涙目にもなっちゃってるから。
私たちは帰り道を手を繋いで歩いた。
直樹の手はあったかくて…夕方の風は涼しくて…気持ちよかった。
fin