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ブーゲンビリア

第2章 目が覚めて



目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。ぼんやりとする頭で、ああ引越しをしたんだと思い出すが、なかなか睡魔に勝てず脳は覚醒してくれない。ふと時計を探そうとして見つからず、まだこの部屋には時計を置いていなかったことも思い出す。もぞもぞと布団から這い出る様にして充電していた携帯へ手を伸ばし、時間を確認する。午前七時。鳥が窓の外で囀っている音が聞こえ、寝過ぎていなかった事にほっと安堵する。が。何か重大な事を忘れている気がしてならない。衝撃的で、重大で、とてつもない問題点があった様に思うのだが。はて、一体なんだろうと未だぼんやりする頭で考え出した瞬間、

―――コンコンコン。
「めぐみ様、お目覚めでしょうか?朝食の支度は整っておりますので、ゆっくりいらして下さいね。」

爽やかな、朗らかな、まるで語尾にハートマークが飛び交うような甘い声が急に過ぎる。ああ、これだ。なんて事を忘れていたのか、いやそれほどまでに思い出したくなかったのか。昨日から奇妙な同居生活を送らざるを得なくなってしまった相手を思い出し、急に頭痛を覚える。此方の返答は求めていなかったのか、パタパタと遠ざかる足音。目覚めたばかりなのに何故か既にぐったりとしている体を引きずって、受け止められない現実を見ようと起き出した。顔を洗って脳は覚醒したが、リビングの扉を開ければ目を逸らしたい現実が私を待ち構えていた。

「おはようございます、めぐみ様。」
「………おはよう、ございます。」
「昨日はお疲れのご様子でしたが、良く眠れましたか?」

微妙な間の空いたこちらの返答を気にした風もなく、彼はニコニコと話を続ける。頷いたり目を逸らしたりする、決して良いとは言えない態度をとる私を咎める気すらないようだ。いっそ責められて嫌われて一人きりにしてくれた方が良いかもしれない、なんて考え始めた頃、テーブルの上に並べられた食事とその量が目に入りポカンとする。目敏く気付いた彼が続けた。



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