第5章 きっと
朔夜はこんな風に感情を表に出す人間だっただろうか。私に対してこんあ冷たい物言いをする人間だっただろうか。自分の事を「オレ」などと呼ぶような人間だっただろうか。こんな、こんな、酷く自嘲するような、絞り出すように声を出す人だっただろうか。どんな時も朔夜は冷静で、一番に考えてくれるのは私の事で。いつだって私を優先して、尊重して、そして惜しげもなくその好意を前面に出してくれていた。柔らかな物腰と物言いで、それでも伝えたい事はハッキリと目を見て伝えてくれていた。
どうして、そんな辛そうな。泣きそうな顔をしているの。
「オレみたいなヤツはあなたに見合わない人間だって事、痛いほど分かっています。それでも!それでも…どうしようもなく愛しくて、どうしようもなく好きで…諦められなくて。最近では自分が恐ろしいんです…歯止めがきかない。もっともっとと望んでしまう。あなたに好かれたいと…思ってしまう。」
「朔夜…。」
「そんな風に思ってもらえる様な人間じゃない事なんて分かってます。でも…めぐみ様が愛しすぎて…辛いんです…こんな醜いオレを、見ないで下さい…。」
言葉通り、自分を見せないように朔夜は私を抱き締める事で自分の顔を隠してしまった。身を強張らせることも忘れて、私は噛み砕くように朔夜の言葉を少しずつ理解していく。私が感じていた好意は決して自意識過剰なんかではなく、真実だった。こんなにも痛いほどの想いを伝えてくれる朔夜に対して、どうしてだろう、そんな状況でもないのに心が「嬉しい」と感じてしまう。
ああ、私は。
「朔夜。」
「…っ見ないで下さい。今のオレは、醜い。」
「朔夜。お願い、聞いて。」
「聞きたくありません!あなたは、きっとオレを捨てていく…。こんな、あなたにふしだらな想いを抱えて接していた護衛人失格のオレなんて、そんな価値もないっ…。」
「朔夜。好き。」
きっと、朔夜が好きなのだ。