第5章 きっと
「だ、だれ…?」
「初めまして、篝朔夜と申します。めぐみ様の身辺警護をさせていただいております。」
「え、警護?」
「はい。」
ポカンとする山本くんは微笑みを浮かべながら淡々と語る朔夜にかなり動揺している様だった。それはこの状況で声をかけられた事に対してなのか、朔夜との関係性になのか、はたまた淡々と語る朔夜の声がやけに冷ややかで、目が全く笑っていない事に対してなのか。オロオロする山本くんを放って、朔夜は流れるような手つきで私を自分へと引き寄せる。そして家の扉を開けて、そのまま目が笑っていない笑顔で冷ややかに告げた。
「めぐみ様をここまで送ってきていただき、ありがとうございました。どうか気を付けてお帰り下さい。」
「えっ。」
驚く山本くんをまたしても完全にスルーして、私の腕を掴んで家のなかへと押し込む。今までの朔夜の振る舞いからは信じられないほど乱暴に押し込まれた事に目を丸くする私は、閉まる扉の向こうで固まる山本くんに何も言えないまま鍵が閉まる音を聞いた。
ガチャンと響いた錠の落ちる音に大袈裟に反応してしまう。自分に訪れた出来事の衝撃具合に頭が付いていかず、それでも今囲む雰囲気が不穏なものである事は分かった。恐る恐るといったように朔夜の顔を確認しようと頭を持ち上げようとした時、先程家のなかへ押し込んだ時同様かそれ以上の力で壁に押し付けられる。ドンと壁に背中がぶつかり、わりと痛い。何か口を開こうと今度こそ頭を持ち上げたら、漸くちゃんと朔夜の顔を見る事が出来た。
「…!」
朔夜は、無言だった。
でも、そこにいつもの柔和な微笑みはない。どこまでも冷ややかな、冷徹な、感情なんて見当たらないほどの能面の様な無表情で其処にいた。私を見つめる視線は何処までも冷たいのに、壁に押し付けるように拘束する腕は痛いほどの力で私を掴む。何かを言いかけて、やめた。言葉が、見つからなかった。とにかくこの状況から逃げたくて、無意識のうちにリビングへと続く廊下へと視線を向かわせてしまう。