第1章 幼い恋
「あれ?紗知?」
男の人は覗いている私に気がついた。
「あら紗知。リビングにいるのかと思った」
「あ、うん……」
「挨拶しなさい」
「こ、こんにちは…」
「紗知、俺のこと覚えてない?笑」
「……はい…」
「そーだよな。紗知ちっちゃかったかんな」
「ごめんなさい…」
「いやいや!あやまんなよ笑」
「とにかくリビング上がって?」
母が陸さんをリビングへ招く。
カッコいい……。
「にしてもあんなに可愛かった紗知が
こんなに美人になるとはね」
「そんな///」
「ん?メイク自分でやってるの?」
「え……はい」
「ファンデーション、ムラがあるよ」
「え///うそっ」
私は部屋に駆け込み鏡を見つめる。
「~~~~っっ///」
確かにそうだ。
かすかに、ムラがある。
「最近始めたの?」
声のする方を見るといつのまにか
陸さんが立っていた。
「メイクですか?」
「うん」
陸さんは部屋に入ってくると
私を鏡の前に座らせる。
「ふーん、やっぱり最近の中学生は大人だな。
結構いいやつ使ってるんだ。」
陸さんは私のメイク道具を見つめながら言う。
「これとか高かったでしょ。こっちは限定品だし。」
「はい…」
「でも、もったいないな」
「え?」
「こんなにメイク道具だけ良くったって
使いこなせてないんじゃ、もったいないよ。
例えば、このファンデーションは紗知が使うなら
もっと明るい色がいい。このメーカーのチークは
のばして使った方が自然に見えるし、
マスカラはもっと自然に。まぶたに付くのは
もってのほかだな笑」
私は陸さんに笑われてもう一度、鏡の自分を
見つめる。
確かに、まぶたにマスカラが付着してる。
「やだ…気づかなかった」
「こっち向いて?」
「?」
言われるがまま陸さんの方を向く。
陸さんの手が私に伸びる。
「はい、完成」
前を向くと鏡の中の自分と目が合う。
「え……」
私じゃないみたい。
メイク道具は変えずに、
でもいつもの自分と違う。
なんというか、自然だ。
「ルージュはもう少しオレンジ系が合うかな」
「オレンジ?」
「明るい感じの。」
「これとか?」
私は引き出しから大切な口紅を取り出す。
そう、陸さんにもらったやつ。
「あれ?これ」
「陸さんにもらったやつ」