第1章 ラブシーン 前編
「はぁ?」
「あっちの部屋にベッドがあるからあっちでしよう」
そう言ってナオは立ち上がろうとした。
私はあわててナオの手をつかむ。
「ちょっ、ちょっと待って。今日?」
「うん、せっかくだし」
「せっかくとか意味わかんないし!」
「ダメ……?」
ちょっときつい口調になった私に、ナオは寂しそうな表情をした。
ナオにこういう顔されると、なんかちょっとひどいこと言ってしまったような気になる。
「……だって、さっき初めてキスしたばかりなのに、そんなの無理」
なぜか言い訳しているような気になる。
ナオはちょっと考えてから答える。
「練習するだけだし。ちょっとだけ。ね、お願い」
甘えるような顔をして、ナオは私をじっと見る。
なんか子どものときから、こんな感じでいろいろと面倒なことをお願いされていたような気がする。
私は黙ったまま横を向いた。
「仕事で、演技でやるだけだから関係ないかもしれないけど、俺、初めてのそういうのはユウちゃんとがいい」
私はナオの顔をそっと見た。
ナオはにっこりと笑って私の手を取る。
「行こう」
そう言って立ち上がり、ベッドの前に連れて来られた。
なんかやっぱり子どものときからいろいろと変わってないような気がする……。