第2章 Room
「……はぁ」
詩乃は見慣れた天井から視線を外すと、ゆっくり身体を起こす。
─── 待ってるから・・・ ───
そっと人差し指を唇に寄せ、自分が何を言ったのか脳裏に響く声が、詩乃を現実へと徐々に引き戻していった。
「・・・ま、待ってるって、私・・・ッ」
キュッと唇を噛み締め俯く詩乃は、事の重大さを改めて実感する。そして、自らの放った一言で、キリトがどうするか容易に推測できた。
「ど・・どうしよう」
ふいに、姿見に映る姿が目に入った。乱れた髪に下着姿。学校から帰宅後、制服を脱ぎ捨てて早々とログインしたせいか、今や誰にも見せられない姿で鏡と向き合う詩乃は、体を一気に朱に染め上げた。
「~~~~ッ!!」
焦る内心と冷静さを保とうとする精神の狭間で、詩乃は急いで着替えを始めた。
─── キリトは・・・絶対来る。 ───
脱ぎ散らかした制服をハンガーに掛け、髪も手早くブラシで整える。
「・・・って、何やってんだろ私」
浮足立つ自分へ冷静に突っ込んだ詩乃は、大きくため息を漏らした。
「キリトがここに来るから何だっていうの。ハハッ・・・バッカみたい」
─── ごめん、実は俺・・・ ───
詩乃はブンブンと頭を振った。GGOで言われた一言が脳内でリピートする。
「・・初恋、だったんだけどなぁ・・・」
ため息混じりに漏らすと、詩乃は両手で顔をパシっと叩いた。
「・・・よし!どうせ来るんなら、丁重にもてなそうじゃないのッ」
ザッと部屋の中を見渡し、散らかっている所を手早く片付ける。洗濯物は洗濯機に放り込んで、エアコンを快適温度に設定した。
「そうだ、飲み物はっと・・・うん、お茶とコーヒーか。確か最近はコーヒー飲んでるって言ってたし、充分よね。あとは、何かお菓子とかあれば・・・とと。ん、これこの前買ってきて、まだ食べてなかったんだ」
と、ポツリポツリと言葉をもらしていると、静寂を断つがごとく、室内にチャイムの音が鳴り響いた。