第9章 *オレにわがまま言って?【黄瀬涼太】*
黄瀬side
「やばい…!もうこんな時間っスよー…!」
オレは今走ってる。
仕事帰りだからスーツに身を包んで、片手には鞄と……コンビニで買ったケーキ。
早く終わったから、帰りにケーキ屋さんに寄る筈だったけど……同僚に呑みに誘われて行けなかった。
そのお詫びと言ってはあれだけど、ないよりマシだと思って。
今日……彼女の誕生日だから。
「ハァ、ハァ、っ、ハァ……っち…!起きてる…?」
「あっ、涼太」
「ごめんっち…!呑みが長引いちゃ、」
「ううんいいの!お疲れ様、疲れたでしょ?」
「えっ……」
「お風呂入る?それとも小腹すいてる?」
合鍵を使って中に入ると、そこには怒ってるっちでも悲しんでるっちでもない……普段通りの彼女がいた。
一緒にお祝いしようって約束してたのに……断れなくて呑みに行っちゃったのにちっとも責めたりしない。
どうして……
「簡単なもの今作るから!その間にお風呂どうぞ」
「あ……」
どうして……なんて思ってた時、オレは見てしまった。
冷蔵庫の中に入ってた……沢山のご馳走を。
主役なのに『料理は私が作る!』って聞かなかった事を思い出して、申し訳なさでいっぱいになった。
しかもご馳走を手に取るわけじゃなく、また新たに作ろうとしてるっちを見て……
オレは堪らず後ろから抱き締めた。