第2章 *同棲初夜【黒子テツヤ】*
黒子side
「さん?」
「あっ、ごめん。つい見入っちゃって」
僕がこうして声を掛けたのは、不動産屋さんの前で足が止まってから数分後。
唇に人差し指を当てて、まじまじと物件のチラシを眺めている姿がなんだか可愛くて……こっちもつい見入ってしまっていたんです。
ほんのり頬を色付かせて「へへっ」と笑うさん。
彼女は憧れています。
同棲というものに。
「行こっ!テツヤ!」
「ちょっと待って下さい。もう少し見て行きませんか?」
「え、テツヤ引っ越すの…?どこ?遠いの…?もう会えないの…?」
「違います。僕は遠くに行ったりはしません」
「じゃあなんで…?」
「もう少し広い所へ移ろうかと思いまして」
「今のアパートそんなに狭いかなぁ…?1人じゃ充分だと思うんだけど……」
さんの気持ちに気付いてから僕は地道にお金を貯めてきました。
安い給料で貯蓄までするのは結構厳しい道程。
けど僕も彼女と一緒に住めたらって考えていたし、今お互い一人暮らしだから、一つ屋根の下で暮らせば節約にもなる。
それに毎日さんと一緒にいられるなんて、僕にとったら幸せ以外の何ものでもありません。
だから僕はひっそりと準備をしていました。
もういつでも大丈夫です。