第12章 *思い出の海【花宮 真】*
花宮side
肌を掠める冬独特の鋭い風。
この時期になると……オレは必ずある場所に赴く。
いつどんな時でも、そこは穏やかにオレを出迎えてくれる。
静かな波音と共に。
「……」
別に入りたいわけじゃない。
このクソ寒い中、泳ぎたいと言う奴がどこにいる。
オレは逢いに来たんだ。
海が大好きだったあいつに。
オレが……唯一愛した女に……。
「ふはっ、相変わらず大人しいなお前は」
こう話すオレの側には誰もいない。
あるのはどこまでも広がる海だけ。
当然声が返ってくるわけでもなく、波音と共に消えていく。
でもオレは柄にもなく届いてると信じて……その女に向かって語り掛ける。
「あれからもう何年も経ったな。お前はいつまでオレを縛り付ける気だ?」
オレを本気にさせておいて消えてしまった女は、今でも心の中で微笑みかけてくる。
「ま、真くん」って、名前を呼ぶだけで照れながら。
……こんな事になるなら、もっと優しくしてやればよかったと思う。
オレはいつも……あいつに対して色々と乱暴だった。
最後に抱いた時の事はよく覚えてる。
大学2年の頃だ。
あいつを泣かせてしまうほど……オレは激しくシてしまった。
……ムカついたんだ、あいつが周りにチヤホヤされてるのを見て。
自分の側から居なくなりそうで怖かったのかもしれないが。
「って……マジで居なくなるとはな、……」