第5章 したかったこと side M
ソファにいるタチバナさんの横に座って煙草の箱を手荷物と彼女はライターを手渡そうとしていた。高校生ふたりで座るソファーは大人の時より広く感じた。何だか妙に距離を感じてタチバナさんに近付きたくなる。だから最初ここに座った時のように煙草の火を彼女の咥える煙草から直接頂く。俯き気味に下を見たタチバナさんの睫毛は意外と長かった。化粧かと思ったがよく見るとマスカラはつけてない。唇はビールで少し濡れて艶っぽい。
「ねー、先輩。ちゅーしよっか」
俺は最大限に年下っぽい様子を出すと彼女は小さく笑い唇を重ねてきた。彼女の煙草独特の香り。
甘酸っぱいと表現するには程遠い煙の香り。生まれてはじめてキスをした時より胸が高鳴った。そう言えばそれは今よりもっと後のことだ。そうなるならばこれが俺のファーストキスになるのだろう。
不思議な気分。つい先日Sexをしようとしていた相手と後に人生で初めてのキスをするなんて。
彼女の顔が赤いのは気のせいでもアルコールのせいでもないと思いたい。
そのあと俺は何か言ったはずだがその後の出来事が大きすぎて忘れた。
「もう1回しよっか」
彼女がそう誘ったからだ。
絡まり合うような深い口づけをした。いつか幼い頃見た、大人ってスゲーかっこいいなって思ったアニメのワンシーンを彷彿させるような、そんな口づけ。
「大人のキスよ」
彼女は確かにそう言った。頭のなかで再生された台詞が耳から聞こえた。
自分でもわかるくらいに体温が上昇する。続きはこうだ。
―――帰ったら続きをしましょ
なぜその登場人物がそう言ったのか今ならわかる気がする。俺の立場が幼い子供から其れを守りたい大人に変わったからだと思う。
それなのに今は何故かその大人の冷静さが少し欠けている。この俺の精神はどちらに居るのだろうか。
ただただタチバナさんの不意打ちの行動に驚きを隠せずにいた。