第4章 したかったこと
「これなら少しは抵抗ないです」
クロサワは制服のパンツとカッターシャツ、その上に私の大き目のカーディガン。
ワックスで散りばめた髪。彼の腕には今の年齢にそぐわない時計が見えた。
この時計は随分と気に入っているものなのだろう。腕を振って嬉しそうに笑っていた。
多分この動きから察するに自動巻きの腕時計。実際の年齢からしてもそれは安易に買えるものではないことくらい私だって知っている。
一方私は高校生だった当時は高くて買えなかった、大学生の頃一生懸命バイトして買った服を床に並べているところだ。
もう年も年だし捨てるか悩んでたけど捨てなくて良かった。
クロサワの制服に合わせるならこっちの少し子供っぽさがある服だけどそこまでしてやる義理はない。
こっちのシャツはラインが綺麗に見えるだろうし あっちのシャツは襟元が少し変形していてカッコいい。スカートもいいけどパンツでもいいかな。
「先輩。まだですか?」
咥え煙草で携帯電話を弄るクロサワは待つことに飽きてきたらしい。
「服決めたあと化粧するんですよね。夕方になっちゃいますよ」
確かにその危険性はある。
起きたのは7時。服を並べ始めたのが8時。今は10時。
折角若くなれたんだものお洒落しなきゃ、そう思ってはみたものの悩みすぎであることも重々承知である。
「じゃあもうこのシャツにこのスカート、上にこれ羽織って下さい」
クロサワが指定したコーディネートは私が大学の時よく合わせていたものそのものだった。
こんなにも悩んだ挙句、結局それかっていう呆れたけど、それはそれでいい。
私は早速その服に腕を通す。
「じゃあ出発は1時間後でいいですか? 靴も俺が決めておくのでさっさと準備して下さい」
この2日間でクロサワは私の扱いに慣れてきたみたいだった。自分でいうのも変な話ではあるが、私は自身が少々厄介な性格である事くらい認めている。
時計の針を確認して慌てて化粧を始めた。1時間も掛からないだろうけど。