第3章 思わぬ出来事 side M
「クロサワ君、何やってるの?」
心臓が口から出そうになった。
名前を打ってみた本人に呼ばれたのもある。
でも1番は、すれ違う時にしか聞かなかった、自分に向けて発することはなかったあの声で名前を呼ばれたから。
妙に恥ずかしくなり先程気付いたこの時代の携帯電話と先日まで使っていたスマートフォンの違いを必要ないくらい力説した。
そして適当なこと言ってタチバナさんの写真を撮り間違えて消さないようにロックを掛けた。
タチバナさんはローテーブルと俺が寝転がるソファの間に座り俺の携帯電話番号とメアドを易々と打ち込んでいく。
高校時代が一番メールしてたからと自慢気に話すタチバナさんの横顔は今の年齢がとはそぐわない懐かしい過去を振り替える少し大人の顔だった。
「明日早いからもう寝るか」
煙草を吸いながらタチバナさんはそう呟いた。
それにお休みなさいと答え目を瞑る。
煙草の火を消す音が聞こえた後服が引っ張られる感覚がした。
「此処で寝たら風邪引くでしょ、ほら行くよ」
タチバナさんは手を伸ばした。
訳がわからないままその手をとると寝室まで引っ張られる。
「ひとりで歩けないくらい眠いなら先に言いなさいよ」
タチバナさんはベッドの奥の方で寝転がった。
「私寝相悪いから気を付けて」
隣で寝ろということらしい。
俺の方に背中を向けて大きな欠伸。その隣に寝転がり天井を見上げる。
昨日の俺はまさかこんな事態になるなんて思いもしないだろう。