第2章 思わぬ出来事
お風呂を出て歯を磨いて髪を乾かし終わったところでリビングに戻るとクロサワはソファで横になっていた。
オーナーにスマホの代わりに渡された時代遅れの携帯電話(まあ今は私の高校生時代だから時代にあったものなんだけど)を楽しそうにいじっていた。
あれ?昨日のこの人ってこんな子供っぽかったけ?
それともこれが素なのかな?
「クロサワ君、なにしてんの?」
私の声に気づいてビクッてなってた。
何このかわいい生き物。
「その声で名前呼ばれるの結構むず痒い」
呼び捨てしない宣言をして名前を呼んだのは今がはじめてだったらしい。
自分でもそうだったか分からないけど、そう彼が言っていた。
どうやらクロサワはボタンのある携帯電話を久々に触ったらしくその感触を確かめていたとかなんとか意味不明なことを言っていた。
フリックになれてしまった手前文字入力が思い出せないだの何だの。
あとはラインがないから不便だとかカメラの画質が悪すぎるだの文句言いっぱなし。
カメラの画質は私も気になったので聞いてみたらいきなり写真を撮ってきた。
「なにこれタチバナ先輩。変な顔」
呼び出し画像をそれにするからという無茶なことを言い出した。
止めることができず渋々番号とメアドを交換した。
お互いにデータの入ってない携帯電話。
登録番号000の最初に登録した相手が1日を一緒に過ごしただけのほぼ他人だということに笑えた。
「でもこれから2年は一緒に住むんだしいいんじゃないですか?」
クロサワの何気ない一言に体温が上昇した。
恋心は冷めたはずなのに、何だか私の調子を狂わせる。