第1章 ここから始まった
納期ギリギリの仕事を忘れたことにしたくて定時で職場を逃げ出した。
家に帰ってきたものの一人で居ると仕事のことを思い出す。
鞄を投げ捨てた先にあるローテーブルの上には仕事関係の書籍が山積みになっている。
好きでそうした筈のこの環境が今は其れが憎い。
私は鞄から財布と家のキー、煙草を取り出してパンプスを履き直した。
玄関にある姿見からは、いつもの私がこちらを向いている。
ちょっと化粧が落ちて、隈がある。睡眠不足か、疲れか。
仕事を始めて数年目。
睡眠時間が惜しいものだからと言い訳をしてお洒落も少しずつしなくなってだらけている。
丁度、高校生の頃と良く似た、扱いやすいヘアスタイル。
社会人になりたての頃は一生懸命してた化粧も、今では、適当に簡単に最低限。
鏡の向こうの自分を確認し、少しだけメイクを直す。
スーツのジャケットの端を引っ張り姿勢を整え、私はいつもの場所に向かった。