第7章 すれ違う気持ち
どうすればいいのかとパニック真っ只中の頭で考えていると
「・・・サンキュ」
と、呟いた彼。そんな彼に目を向けるも、彼はまだそっぽを向いたまま。顔は見えないが、ひっそり見える赤らんだ耳が、私を少し安心させた。
暫くしてゆっくり振り向いた功平は、私の顔を覗き込む。
「・・・まだ少し顔色悪いな」
「・・・そう?、わっ・・・!」
私の返事とほぼ同時に、私は彼の手によって彼の左肩に凭れかかることになった。驚きと照れで彼を見ることが出来ず、目をギュッと瞑り少し俯いた。
彼の気遣いなのだろう。心臓には悪いけど、ほんのり嬉しい。
「・・・まだ気持ち悪い?」
「ちょっと、ね・・・」
「・・・ごめん」
沈んだ声と凭れた肩から、シュン・・・と落ち込んだのが伝わる。気持ち悪さが残っているのは事実だが、何だか反応が可愛いくて、つい意地悪したくなる。
「やだ」
「うん、ごめん・・・」
「・・・ふふ、嘘。もう気にしてないよ」
「・・・本当に?」
「うん、本当。意地悪してごめんね」
チラッと目線を向けると、眉を下げて力なく私を見る彼と目が合う。いつも余裕がある彼がこんな顔をするなんて・・・。
「いや・・・俺が悪いんだ。本当にごめんな」
「そ、そんな顔しないで!本当に大丈夫だから、ね?」
縮み始めたと思っていた距離がどこか少し離れてしまった気がして、私は恥ずかしさも忘れて縋る。そんな私に彼は少し笑い、ありがとう、と私の頭に優しく手を置いた。
数秒後、いつの間にかお互いの顔が近づいていたことに気づく。
「あ・・・ご、ごめん・・・」
「あ、いや、俺も・・・」
彼も無意識だったのか、お互いゆっくり離れる。
「・・・そろそろ帰る?バイトで疲れてるよね」
「んなの、とっくに吹っ飛んだ」
「へ、そうなの?どうして?」
「さぁね」
「・・・何それ」
「内緒」
気づけばいつの間にか普段通りに戻っていて、家に帰ったのは完全に日が暮れた頃。帰り間際の、ちゃんと連絡しろよ、という彼に何度も頷いた。
もう変に気を遣い過ぎないと、彼と約束した。話してみないと分からないこともあるんだな、としみじみ感じた。