第6章 縮む距離感
「本当だ、ちょっと瞼腫れてる(笑)」
隣に座る悠輔にも笑われ、少し恥ずかしくなる。ごめんごめんと謝る悠輔に、悪びれた様子は一切伺えない。意地悪な兄弟だ。
「・・・あれ、秀さんは?」
「今日はバイト。明日の朝帰ってくるよ」
「え、明日!?」
悠輔によると、朝帰りは大して珍しいことではないらしい。深夜の方が時給が良いので、次の日に支障がなければシフトを入れるのだとか。・・・やっぱり大学生ってそんな感じなのか、としみじみ感じた。
「ともはバイトしてる?」
「ううん。大学生になったらしようと思ってるけど・・・」
バイトはしてみたいと思ってたけど、部活もやってたし学校自体がバイト禁止だった。嘘ついてバイトしなきゃいけない訳でもないし、何より親が頷かなかった。
「悠輔くんはサッカー部に入るんだもんね?」
「うん。でもやるよ、バイト」
「え?でも、ウチはバイト禁止・・・」
「理由があれば、用紙出して受理して貰えれば出来るんでしょ?」
・・・知らない。3年間通ってたけど、そんな制度全く知らなかった。周りの人達も、内緒でバレないように・・・っていうスタンスの人ばかり。
「でも、サッカー部との両立、大変じゃない?」
「まーやってみなきゃ分かんないし、状況次第かな!」
本当に中学3年生なのだろうか。私より遥かに大人だし、何だかとってもキラキラしている。
「おーし、食べるぞ」
夕飯が出来上がったらしく、功平の声につられてテーブルを囲む。余程疲れたのか、陽太は爆睡で起きる気配もなかった。
「功平くんはバイトしてる?」
顔の下半分をマフラーに埋める私と、隣を歩く功平。そう遠くない駅まで、いつも通り送って貰ってる。
「してるよ」
「え、そうなの?」
「・・・そんな驚く?笑」
特に最近は連日で会うことが多かったし、まさかバイトしてるなんて思いもしなかった。
「だ、だって・・・ってか、何のバイトしてるの?」
「引越し」
「え、凄い!」
「何が?」
「力持ちじゃん!」
「そこかよ(笑)」
他に何があるのかと聞けば、確かにないなと笑って答えた。
駅について別れた後、電車の中でふと思った。あんなに面接練習に付き合ってくれてて、彼は一体いつバイトに行ってたんだろう。と。