第1章 日常へのちょっとした変化
彼がおにぎりを食べ終える頃には少しずつ打ち解けはじめ、どうやら心を開きつつある。そんな彼は、私に自己紹介をしてくれた。
名前は笹倉陽太(ささくらようた)。5歳。誕生日は先月迎えたばかり。そして、お兄さんが3人と弟が1人。
「陽太くん、」
「よーたでいいよ!」
「・・・陽太は、いつからここで遊んでるの?」
出会った頃に比べて、呼び捨てにしてもいい程に心を許してくれたことに少々驚きつつ、私はずっと気になっていたことを聞いてみた。だって、この時間にこの年齢の子が公園に1人だなんて。きっとまだ幼稚園か保育園に通っているはずの年齢。今の時刻は14時半ちょっと過ぎ。遠足などでもないのに、平日の真昼間にここにいること自体おかしい。
「さっき!」
「さっき?じゃあ朝は幼稚園か保育園に行ってたの?」
「んーん、きょうはおやすみ」
「・・・へぇ、そうなんだ!」
(・・・お休み?水曜日なのに?あ、もしかして振替休日とかかな。確かさっき子連れのお母さん達もいたし、そうなのかな)
そんなこと考えたってどうしようもないって分かってるのに、どうしたって疑問ばかり浮かんで仕方ない。きっと、もうこの子に関わることなんてないはず。なのにどうしても気になってしまう。だって仕方がないでしょ、この年の子がこの時間にたった1人でお腹を空かせていたんだから。気にだってなるでしょ。
そんな自問自答を心の中で繰り返していると、陽太がゆっくり話し始めた。
「こーにぃがね、ここでまってろって」
(こーにぃ・・・?)
にぃ、ってのはもしかしてお兄さんのこと?そう勝手に解釈して、そうなんだ、って返事をした。・・・てか、待ってろってことは、やっぱり今、この公園にはいないってこと?
その時
「あ、きた!」
「へ?」
「こーにぃー!」
急にベンチの上に立って、公園の入り口の方に大きく手を振り始めた陽太。しかも、急に来たって・・・
(ど、どうすればいいの!?)
陽太の目線を辿ってフッと顔を上げた瞬間、目があった。
「・・・・・・どうも」
目があった“こーにぃ”という人は訝し気な目をこちらに向け、私に挨拶をして来た。慌てて私も頭を下げてみるが、彼の不審な目は相変わらずなよう。
何で私がそんな目で見られなきゃなんないのよ・・・。