第4章 対面そしてご挨拶
「疲れてない?」
案の定送ってくれる彼。1人で帰れると言ったって聞き入れて貰えず、最終的には無理矢理腕を引っ張られるようにして連れ出された。
「ううん、全然!楽しかった!」
「そっか、それなら良かった」
フ、と笑った彼の口から漏れた白い息が気温の低さを物語る。
「・・・寒くない?」
「ん、俺?俺は大丈夫。ともは?」
「あ・・・う、うん、大丈夫」
自然に彼の口から発せられた自分の名にドキッとする。彼から呼ばれることにまだ慣れない私は、呼ばれる度に戸惑ってしまう。
「・・・つーかさ、何で呼んでくんねーの?」
「・・・へ?」
「まだ1回も名前呼ばれてないんですけど、俺」
そう言った彼は歩いていた足を止めた。もちろん私も止まり彼に視線を向けると、少し怒ったようにムスッとしていた。
「え・・・っと・・・」
確かに彼をまだ名前で呼べていない。緊張に緊張を重ねるなんて、そんなハイレベルなこと私には無理だった。何度か呼ぼうとは思ったけど、ヘタレな私は気安く呼びかけることが出来なかった。
でも、こうして普通に会話出来るようになっただけでも私にとっては大きな成長なのだ。そこは評価してもらいたい。
「それに・・・俺には慣れるまでに時間かかったのに、悠輔にはすぐ慣れて普通に話せてるし。名前も普通に呼んでたろ」
不公平。そう言って益々不貞腐れた表情をする彼に、私はどうすることも出来ない。
ていうか、気にしてたんだ・・・。
「わ、わざとじゃないよ?・・・ごめんね・・・?」
こんな彼を見たことがなかったので、よっぽど嫌な思いをさせてしまったのだと思い、素直に謝った。
「んー・・・・・・じゃあ、今呼んでくれたら許す」
「え・・・今?」
「もちろん」
呼べと言われて呼ぶものなのか。こうして面と向かって言われると余計に緊張する。きっと彼はそれを分かって口にしたに違いない。だから私がすぐに言えないということも想定内なのだろう、彼はそんな私を急かすことはなかった。そして数秒あけてようやく
「・・・こーへー、くん、」
と私が言えた時、彼は満足したように笑った。まさかそんなに喜んで貰えるとは思わなくて。
だったら今度からはきちんと呼べるようにしよう、と私は密かに意気込んだのだった。