第2章 冷え始める季節
何となく気になってお兄さんの方を見てみると、前にも見たことのある穏やかな顔でこちらを見ていた。そして優しく陽太の頭を撫で、呟くように口を開いた。
「コイツのこんな顔、久しぶりに見たかもなぁ」
こんな顔、という言葉に、私も陽太に視線を移す。まだまだあどけない何とも可愛らしい寝顔。
「珍しいんですよ、陽太がこんなに人に懐くの」
「そう、なんですか?」
本当にそうなのかと疑問に思ってしまう。だって、あんなに人懐っこくて、元気一杯に笑っているのがとにかく印象的だったから。
「普段聞き分け良いから、まさかダダこねるなんて思いもしなくて・・・。迷惑かけてすみません」
「そんな、迷惑だなんて・・・。嬉しかったし、私も楽しかったですよ」
元々子ども好きだったけど、こんなに心を開いて貰えるなんて思ってもいなくて本当に嬉しかった。誰かに求めて貰えることがこんなに嬉しいんだってことを、改めて思えた時間だった。
「確かに、結構サッカー楽しんでましたよね」
「あ、はい、楽しかったです!」
「3年間選択してるんですもんね?」
「はい・・・それが、何か・・・?」
「いや、別に?」
「・・・笑ってますよね」
「いやいや、笑ってないですよ」
いやいや、笑ってるから!ニヤニヤしてるよ?てかそれわざとじゃない?違うの?え、それとも何、隠してるつもり?溢れてるよ?溢れちゃってるよ?ていうか、突然何なの!?
「あはは、百面相(笑)」
「・・・はい?」
「思ったこと、顔に出てる。笑ってごめん(笑)」
「・・・思ってないですよね?」
「思ってますって(笑)」
「・・・絶対思ってない」
いつの間にかお互いタメ口になっていて、気づけば緊張や人見知りはどこかいってしまっていた。それに気づいたのは、陽太のクシャミで我に返ってからだった。
「さすがに帰らないとな」
日が傾き始めて寒さも増してきた。お兄さんのブレザーに包んだまま陽太をおぶった彼は、この間と同じように私を駅まで送ってくれた。断っても仕方のないことは先日の一件で分かっているので素直に送って貰った。
「本当ありがとな。風邪引かないように」
「こちらこそ。陽太、またね」
お兄さんの背中で気持ちよさそうに眠る陽太の頭を撫でてバイバイをした帰り道、私はどこか寂しい気持ちを抱いていた。