第13章 記憶の扉(後編)
僕たちの祖先はアトランティス大陸に暮らしていた。地球の変動により人が暮らしていくことがしばらくできなくなることがわかり、僕たちは宇宙へ居住を移した。僕たちは地球を捨てたわけではなかったが、地球に再び人が住めるようになったとき、アトランティス大陸には人が住むことは困難だった。なので僕たちは地球を神とし、そのまま宇宙で暮らし続けた。
僕は10歳のときに特殊魔術学校に入学した。特殊魔術学校は地球を模したコロニーで、わりと地球の近くにある。僕が生まれたのはもっと地球から遠く離れたコロニーだ。僕はそこの科学館で地球の素晴らしさを知り、地球に行くことを熱望した。だけど僕のような庶民が地球に行くとなると、手段はひとつしか思い当たらなかった。それは特殊魔術学校を卒業することだ。特殊魔術学校を卒業すると悪魔として地球に降りることになる。魔術により人の願いをかなえ、地上をより善き世界にする。そして有事の際には魔術をもって地球のために戦う。つまり僕たちは神を守る軍隊なのだ。
僕の母は僕が特殊魔術学校に入ることに反対した。おまえの性格で軍人になるのは無理だと言った。だけどいまは戦争なんて時代じゃないからと子どもの僕は懸命に説得した。なんとか納得して送り出してくれたわけだが、本当は僕が母のことを、家族のことを忘れてしまうのが嫌だったのかもしれない。特殊魔術学校に入って最初にすることは、魔術により自分の名前を忘れること。そしてそれまでの10年間の記憶を忘れることだからだ。
だけど、なぜか僕は忘れなかった。僕には優しい父と母と、兄と姉が一人ずついた。生まれたときにもらった名前も覚えているが、その名は口にすべきではないだろう。なぜ忘れなかったのかは僕にはわからない。僕には見たものをすべて記憶する能力がもとからあった。しかしそんなものが魔術に関係するとも思えないが……、まあとにかく覚えていたわけだ。そして僕には魔術の才能だけはあった。性格的に、人間的に多少問題はあったが、友人に恵まれ無事学校を卒業することができた。そして僕は地球にやってきたんだ。