第12章 記憶の扉(前編)
マリィはしばらく言葉を失ったように黙っていた。
そしてゆっくりと口を開く。
「……わたし死んだの? じゃあここは天国? あ、地獄か」
そう言って僕の顔を見て笑う。僕は言った。
「ここは……、僕の記憶の中」
「記憶の中……」
マリィは僕の顔を見て微笑んだ。
「うれしい……。わたしのこと忘れないでね」
「忘れないよ……」
僕はマリィにぎゅっと抱きついた。マリィは僕の髪をそっとなでた。
マリィは僕のために紅茶を淹れてくれた。
「これをあげる」
僕は握った手の中から指輪を二つ出した。
「なに? どこから出したの? 手品?」
「……魔術。左手を出して」
僕は彼女の薬指に指輪をはめた。彼女はにっこりと笑った。
「僕にも」
「うん」
今度は彼女が僕の左手の薬指に指輪をはめてくれた。
彼女は手をひろげて指輪をじっと見た。
「きれいな赤い石……」
「ガーネット。一月の誕生石だよ」
「覚えててくれたんだ」
「覚えるのは得意なんだ」
僕がそう言うと、彼女はうれしそうに微笑んだ。そしてちょっと心配そうに言う。
「12時過ぎたら消えちゃう?」
「絶対に消えない。僕の魔術は本物だよ」
僕は自信をもって答える。
「そうなんだ」
彼女はにっこりと笑った。
「僕の話を聞いてくれる?」
彼女はゆっくりとうなずいた。