第9章 殺して
事務所の扉が開いた。
ミシェルが立っていた。
中年の男が拳銃を向けて言う。
「誰だ、おまえ」
ミシェルが横目でそっちを見ると拳銃が床に落ちる音がした。
そして中年の男が小さなうめき声をあげて倒れ、すぐに静かになった。
若い男が立ち上がる。
「な、なにこいつ」
ミシェルはゆっくりと歩き、こちらに近づいてくる。
若い男は後ずさりしながらナイフをかまえる。
私は熱風を感じ身をちぢめた。
若い男が炎に包まれていた。
悲鳴が聞こえている。
ミシェルは私を抱きよせ、私の耳を手のひらでぎゅっとふさいだ。
彼の手が少し震えているように感じた。
「ミシェル……」
私は彼の顔を見上げる。
彼は私の目をみつめ、少し微笑んで言った。
「帰ろう」