第9章 殺して
その後、二ヶ月間ぐらい本当に楽しかった。
いろんなことがあったような気もするし、なんにもなかったような気もする。
彼はやさしくてかわいくて、私はすごく幸せで。
でもそれがずっと続かないってことも、私は知ってた。
「ねえ、どこか旅行に行こう。一週間ぐらい」
部屋でお茶の用意をしていると、ベッドからミシェルが声をかけた。
「旅行?」
「きれいな海見たくない?」
彼は私を背中から抱きしめ、ちょっと甘えるような声で話す。
「海が見える部屋に泊まって……、一日中いっしょにいよ」
「素敵だけど……、そんなに仕事休めないよ」
私は彼の手をほどいてテーブルにお茶とお菓子を並べる。
「……どうせつぶれるよ、店」
少しすねたように彼が言う。
「ミシェルは……いつまでここに?」
私が聞くと、お茶を飲みながら目を合わさないで彼は答える。
「もうそんなには」
「そっか……」
「このシフォンケーキ、いい感じにふくらんでるね」
彼が機嫌をとるように笑いかける。私は笑い返せなかった。
「お別れが近いんですね」
「……うん」
少しだけ困った顔をして彼はうなずく。
私は涙が出そうなのを必死でこらえる。