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冬の夕空

第2章 新しい空気


月曜日、花街のはずれにあるこの洋菓子店はいつも暇だった。
花街では週末にみんなお金をたくさん使うからだろう。お茶を飲みに来る客さえあまりいない。まあ、お茶を飲みにくるというより同伴出勤の待ち合わせに使われているだけかもだけど。
カトラリーの手入れをしていると二人組みの客が来た。

「ねぇ、そこのかわいい店員さーん」

愛想のいい若い男性に声をかけられる。栗色の髪にパッチリとした明るい瞳。ハンサムといえなくもない。

「キミいつもここで働いてるの? 名前は? 歳いくつ?」

場所が場所だけに、男性客も多いこの店ではこんな軽口をたたく客は多い。ほとんどが単なる社交辞令みたいなものだ。だからもちろんこんなことに今さら動揺しない。
だけどこの日は違った。ものすごくドキドキしていた。
土曜の夜、教会にいた彼がいっしょにいた。
彼はケーキが並べられたショーケースを熱心に眺めている。

「ミシェル、ケーキ決まった?」

愛想のいい男性が彼に声をかける。
ミシェル。彼の名前……。ミシェルっていうんだ。
彼は、ミシェルは、私のほうを見た。緑色の瞳で。
息が止まった。

「何がオススメ?」

素敵な声!

「りんごの季節なのでりんごのタルトがオススメです」

声が震えるんじゃないかと思って緊張した。

「じゃあそれと、これとこれと……」

今度は手が震えてケーキを落とさないように注意しなければいけなかった。



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