第2章 新しい空気
「かわいい家」
扉をくぐりミシェルは言った。
「……狭いんです」
私は小さくため息をついた。
小さなテーブルとクローゼットとベッドのある部屋がひとつ。それにバス・トイレと小さな小さなキッチン。勢いで誘ってしまったけど、なんだか恥ずかしい。でもミシェルは楽しそうに部屋を眺めた。
このことがあってからミシェルは毎週日曜に私の部屋へ来るようになった。いつも1時間ほど、紅茶と私が焼いたお菓子で過ごす。ミシェルは冷静で的確な批評もしてくれた。それはまだ店に出すようなお菓子を作ることができない私にとって、励みになり勉強にもなった。
ある日ミシェルが私に聞いた。
「君はいつまであの店で働くつもり?」
「将来独立できるようなお金が貯まるまではあそこで働くつもりですよ。私、あの店のケーキ好きだし」
「残念ながらあの店は長くない。レオンに金を借りるようならもう末期だ。内緒だよ」
彼はそう言って人差し指を唇にあてる。
「そうなんですか……」
確かに新しい金貸し屋に借金するなんて。オーナーそんなに困ってたんだ……。
「だから面倒なことに巻き込まれないうちに逃げ出したほうがいい。まあでも今日明日というわけではないよ。半年もつかもたないかといったところかな」
私は深くため息をついた。彼は続ける。
「君は紅茶を淹れるのがとても上手だからどこでだって働けるだろう。適当に旅をして気に入った町で暮らすといい。僕たちのように」
そう言って彼はにっこりと笑った。