第26章 Exclusive Love.(井伊直政)
「なるほど…天然タラシと言うわけか」
「信之様…?」
「いや、すまない、同じ様な人間が近くにいてね…弟なんだ」
真田幸村、この男もまた天然たる言動で数多くの女性を虜にしてきた。
だが、本人には全くその気も悪気もない。
「私がこんな事思うのは間違っているのはわかっているのです」
俯くの髪がサラリと揺れる。
「忍には必要のない感情です」
「何故?」
顔を上げると穏やかに微笑む信之と目が合った。
「誰かを想う気持ちは誰にだってあって良いものだ、例え武士であろうと忍であろうと」
「……っ」
「君は直政殿との関係をどうしたいんだい?」
「関係……」
今は武士とそれに仕える忍。
もしも、そこから関係を変えられるのなら。
「直政殿の大切な人に、なりたいです…」
一歩踏み出したい。
言葉にした途端涙が溢れて止まらなくなった。
姫様方の様に綺麗な着物は着られないけれど。
化粧もする事はないけれど。
貴方の瞳に写っていたい。
ポロポロと涙を流すの頬に信之の指が触れる直前だった。
「妾にでもするおつもりですか?」
空気を切り裂くような通る声が背後から聞こえる。
その声は何処か怒りを含んでいた。
「ソイツは俺の忍です、俺の許可なく勝手に絆すのはやめて頂きたい」
振り返った二人が見たのは眉間に深くしわを寄せた直政の姿。
「直政様…!」
は主の姿を見るとすぐにその場に膝間付く。
「どうやら…涙を拭うのは私じゃない方が真田の為らしい」
真田と井伊家の関係まで危うくなりそうだからねと、笑って信之はの肩を軽く叩いた。
「信之殿が泣かせたんですか」
「それは心外ですね、理由は是非彼女から聞いてください」
そう言い残して信之はその場を立ち去った。
残された直政と。
は未だ膝間付いて顔を伏せたままだった。
「…任務でしょうか」
「………何故泣いていた」
下を向いたままのの顔を直政は両手で挟み上げさせる。
「……!」
目が合う。
全てを見透かされてしまいそうなほどの強い視線に堪えられず、再び下を向こうとするが直政がそれを許さない。