第20章 You're the one for me ~third~
兄の名を、叫びたいのに自分はそれも出来ない。
「随分威勢のいい兄ちゃんだと思ったのによォ…なんだぁ?はっ…口だけか?」
身なりの汚い四、五人の男に颯が囲まれる。
颯の肩にじんわりと血が滲んでいるのがの所からもはっきりと見えた。
「お前等だけは許さない!父や母…姉の仇!!!」
「…?!」(ま、さか…)
自分の心臓の音がうるさい位に聞こえる。
「仇ィ?あぁお前あの旅一座の倅かぁ?だったら歌姫寄越せよ、あの時会えなかったからよォ…なぁ?」
男は同意を求めるように仲間を見渡した。
回りを囲んでいる男達はニタニタと笑い颯を見下ろしていた。
(嫌だ!颯兄様…!!)
兄を取り囲んでいる輩は間違いなく家を襲った山賊。
その山賊が今度は兄を斬ろうとしている。
兄まで失ってしまったら、自分はどうすれば良いのか。
声の出ない代わりにの目からは涙が溢れていた。
(足が、すくんで動かない…)
は着物をぎゅっと握り締めた。
「妹は…だけは絶対に渡さない…!」
ボロボロになりながらも颯は必死に抵抗を見せる。
山賊の恐ろしさに周りの村人達も一歩も近付く事が出来なかった。
「歌姫寄越さねぇならお前には用はねぇんだよ!」
そう言って山賊は持っていた刀を乱暴に振り上げた。
「颯!!…やめてくれ!」
「逃げろ颯!」
村人達が叫ぶものの颯は立ち上がる事が出来ない。
もう歯向かう力が微塵も残っていないのだ。
覚悟をした様に颯は目を瞑った。
(嫌…嫌だ!兄様!………助けて…)
山賊は汚い笑みを浮かべながら刀を思い切り降り下ろした、その時だった。
村人達も颯自身も諦めたその瞬間、大きな金属音がして山賊の刀が真っ二つに折れた。
刀を止められた山賊ですらも何が起きたのか理解できていなかった。
目をゆっくりと開けた颯の前には逞しい背中に丸に十字の紋。