第20章 You're the one for me ~third~
豊久と再会したあの日からは城の建つ方角を見つめては物思いに更ける事が多くなった。
その姿はまるで想い人を待っている様に儚くも何処か信じている物がある、そんな様だった。
(どうしたら、話せるようになるのだろう…)
の意識にも僅かな変化が見られていた。
以前までは声が出ない事を嘆き悲しむだけだったのに、今はそうではない。
どうしたら元の様に戻れるのかを考えるようになっていた。
(豊久様は、諦めないと言っていた…)
あの時叫んだ豊久の声が何度も脳裏を過る。
「」
振り返ると竹籠を持った兄の姿があった。
「魚を買いに行ってくる、すぐ戻るよ」
はコクリと頷き、兄を見送る。
しばらく兄の後ろ姿を見送ってからまた目線を城の方へ戻す。
喉元に手を当てて口を開く。
声を出そうと試みるも、出るのは掠れた空気の抜ける様な音だけだった。
(…火でも起こして兄様を待っていよう)
釜戸に向かい、昨夜の残り火に竹で息を吹き掛ける。
細かな灰がヒラヒラと宙を舞った。
その時、表から叫び声が聞こえてきた。
(何…?今、なんて……?)
聞き取れなかった声がもう一度耳へ届いた。
今度は耳を済まして聞く。
「やめろ!颯!!死ぬ気か!!!」
(え!?)
は己の耳を疑った。
聞こえてきた声は確かに兄の名を叫んでいた。
竹を投げ捨て慌てて表へと飛び出した。
ただただ、兄の身だけを案じて。
「……!?」
目の前には信じられない光景が広がっていた。
「!!!お前は家の中にいろ!!」
「…っ!?」
兄の叫ぶ声がする。
何処から…と兄の姿を探し辺りを見回す。
目を凝らしてやっと見つけた兄は地面に座り込み、刀を向けられていた。