第38章 無双学園生徒会執行部。『January』(逆ハー)
「じゃあ、井伊くん行こうか」
メールを打ち終えたあと彼に声を掛ける。
「厄介事を頼まれたって顔してるな」
「そんな事ないよ、私これでも生徒会だし…面倒見させて頂きます」
「へぇ?」
ニヤリと笑う井伊くんに思わず心臓が跳ねる。
イケメン笑顔の不意打ちは体に良くない。
普段から周りに生徒会の皆がいるからそれなりに慣れている筈なんだろうけど。
「この時期に転入も珍しいね?」
「あぁ、親の都合でな。転校は慣れている…でも俺は学校なんて何処でも良い」
「…と、友達とか離れて寂しいんじゃ…?」
「はぁ?ガキか…。学校が違うくらいどうとでもなるだろう、高校生だぞ。連絡手段も、足も幾らだってある」
「そ、そう…」
何を言っても怒られそうな気がして、簡潔に返事を返す。
「それに、そこまで深く付き合いたいヤツもいない」
「え?」
危うく聞き逃してしまいそうになった言葉を慌てて拾い上げる。
平然と言った井伊くんを見ると恐らく本心なのだろう。
要するに一人でも平気って言いたいのか…。
音楽室、図書室と回って階段を下りる。
こうして案内している事ももしかして迷惑なのだろうか。
だったらやめるべき?いや、でも先生に頼まれたしな…。
「あぁ、でも一人いたな」
「え?」
「しつこい位に付きまとって来て勝手に友達宣言してたヤツ」
中学一年の時の話だと言う。
なんだかんだ面白くて、その人とだけは一緒に行動する事が多かったって。
「…良かった」
「?なんでアンタが良かったんだ」
「やっぱり心を許せる人って、いた方が良いと思うから」
それが友達であれ、家族であれ、…恋人であれ。
私にとって三成先輩がそうである様に。
「アイツに心を許したつもりはないが、お前の言う事も一理ある」
「え、と…井伊くん?」
三成先輩を思い出して幸せに浸っていた私を井伊くんが現実に引き戻すように手首を掴む。
「ならアンタがなってくれるのか、俺の心を許せるヤツってのに」
「え……?」
そのまま腕を引かれ、距離が縮まる。
抱き締められる寸前で咄嗟に出た私の手が彼の胸に当たる。
「私、は…」
別に告白されたわけではない。
友達宣言の可能性だってある。
頭の中で言葉を選んでるいると目の前の階段から声が降ってきた。
「その手を離せ」