第36章 無双学園生徒会執行部。『November』(逆ハー)
「君が居残りで仕事なんて珍しいな」
「……えぇ、終わらなかった所があるので」
日も落ち掛けている17時、隆景は一人生徒会室で仕事をしていた。
その事自体が珍しい、信之はそう思ったが口に出す事なく隆景の隣に腰掛けた。
「手伝おう」
「いえ…これは私の仕事ですから」
「いいから。…こんな時は甘えるものだよ、隆景」
『こんな時』は。
信之のこの言葉に隆景は一瞬驚いた後ーーー、自嘲気味に笑みを浮かべた。
やはり会長には全てお見通しと言う事か。
「……じゃあ、お願いしても良いでしょうか」
「あぁ、もちろん」
信之はそう応えると目の前の書類に目を通し始めた。
自分の気持ちに気付いてしまった以上、半端な事は出来ない。
昼休み、は隆景にそう告げた。
自分は三成が好きだ、とも。
どこまでも誠実で真っ直ぐな彼女らしい言葉だった。
その瞳には迷いは一切感じなかった。
『私なんかを好きになってくれてありがとう…調子良い事言うけど、これからもその、生徒会の仲間としてよろしくしたい…後、お昼も気が向いたら誘ってくれると嬉しい』
隆景が笑って頷くとは安心したような笑顔を見せた。
本気で欲しいと思った途端、手に入らないと思い知らされる。
「……こんなに傷付くとは思いませんでした」
隆景の呟きを聞いた信之はその手を彼の肩にポンと乗せた。
「…は三成と帰ったのか?」
「いえ…豊久と帰りましたよ」
「豊久と?」
「二人で寄りたい場所があるそうです」
「それは三成が気にしそうだね」
「えぇ、盛大に睨み付けていましたが…私はちょっと胸がスッとしてしまいました」
クルリと指先でペンを回し、隆景は笑う。
自分が手に入れられなかった彼女はこの先三成の元へ行くのだ、少しくらいそう思っても良いだろう。
「はは、三成のその顏見たかったな」
二人はそれから仕事へと意識を移したのだった。