第30章 無双学園生徒会執行部。『June』(逆ハー)
「石田先輩ありがとうございました、これで授業に間に合います」
慌てて出ていった先輩方3人の顔は青ざめていた。
ではこれで、と頭を下げ私も立ち去ろうとすると呼び止められる。
「こう言う事はよくあるのか」
「え……あー…いや、まぁ…」
返事を濁す。
実のところ色々あったりは、する。
例えば階段から突き落とされる、例えば鞄が隠される。
小さな事も危ないって思う様な事もあったけれど報告するまでもない。
なぜなら、私は運が良いからだ。
「ハッキリ言え」
少し苛ついた石田先輩が言う。
「………ありますけど、大丈夫です」
「何故そう言い切れる」
そう言われて迷ったけれど真っ直ぐ見るその目に逆らえず、私は口を開いた。
「実害がないからですよ」
「何?」
「私の運の良さは先輩もご存知ですよね」
階段から突き落とされた時も制服が階段の手すりに引っ掛かり落ちずにすんだ。
鞄がなくなった時もすぐに見つかった。
今回だってそう、石田先輩が来たから助かった。
「私が雑務に就いた理由がちょっとわかってきたんです、私ならトラブルを『回避』出来るから」
会長が私を選んだ理由がそうだとしたら、それは正しいと思う。
他の女の子では身も心も傷付けられてズタズタだ。
「………」
石田先輩の目が僅かに見開かれたのは気のせいだろうか。
もう一度頭を下げて扉へ向かう。
今度は止められなかった。
予鈴が廊下に鳴り響くのを聞いて私は急いで教室へと向かった。
「何が回避だ……」
眉間に深く皺を寄せ、拳を握り締めていた石田先輩の思いを私は知らない。