第28章 You're the one for me ~Final~
『肩を寄せて 君の隣 夢をみせて 語りかける』
父様 母様 姉様
何処かで観ていますか。
私、好きな殿方が出来ました。
『僕は今日で ここを去ろう 最後の僕の 願いは一つ』
『どうか誰かを愛し 家族となり生きてくれ』
は星空から豊久に視線を移した。
カチリと二人の視線が絡み合う。
豊久もそれに気が付いて微笑んだ。
好きな人が笑いかけてくれるだけでこんなにも心が温かい。
『生まれ変わる 時よ 満ちて』
私は豊久様と、生きていきたい。
『風となって 愛しく唄いかけるのは そっと寄り添い 鳴り止まぬ風鈴』
歌い終えたに村人達から惜しみ無い拍手が贈られる。
中には涙を浮かべている人もいた。
それほどまでにの歌声は皆の心へと響いていた。
無論、それは豊久にも。
豊久は静かに立ち上がると舞台のの元へと歩み寄る。
その間も二人は互いを見つめ続けていた。
舞台の上の、それを見上げる豊久。
豊久がにっこりと微笑み両手を広げると、は迷いなくその逞しい腕の中へと飛び込んだ。
「やっぱり最高だ、お前の歌は!」
「…っ」
貴方のおかげなのです。
貴方が私を、此処へ戻してくれた。
伝えたいことがたくさんあるのに言葉が喉をうまく通らない。
「豊久さ…」
やっと目の前の愛しい人の名を呼べたかと思ったらその口が塞がれてしまう。
愛しい、貴方の唇によってーーー。
「好きだ、…俺、お前が大好きだ」
周りにはたくさんの人がいる筈なのに豊久の張りのある澄んだ声だけがはっきりと耳に届く。
「私も、豊久様が好きです…好き、」
再び二人の唇が重なる。
周りからは大きな歓声と拍手。
父を失うも領地を守ろうと必死に走ってきた若殿と家族と声を失った歌姫、二人が掴んだ幸せは周りの村人達をも幸せにした。
「義弘様、どちらへ…?」
「馬に水をな」
「豊久様に声は掛けられないのです?」
「フ…ここでわしが出しゃばるのも野暮と言うものだろうよ」
グビリと音を立てて、義弘は最後の一滴を飲み干し馬に跨がった。