第28章 You're the one for me ~Final~
『空を泳ぐ 雲を止めて 雨を突いて 語り掛ける』
満天の星空の下、袖を通したのはの為にと姉が仕立ててくれていた着物。
『僕は一人 影もなくて 姿見えず さまよう風』
艶やかな髪を飾るのは焼け落ちた家の中にたった一つ残っていた母の簪。
見つけたのは兄、颯だった。
『あの日君を残し 終わりを告げた命よ』
声を取り戻したの事は直ぐに村中に広がった。
颯がどんなに喜び、歓喜の涙を見せたか。
豊久にも容易く想像できた。
「…やっぱり、綺麗な声だ」
舞台上で歌うの姿をじっと見つめていた。
今宵は宴。
これはと颯の回復を祝って村中が総出となり準備をしたもの。
もちろん豊久も準備に携わっていた。
『僕は死んで 君は一人 罪を抱いて 涙枯れる』
『どうか自分を許し 心、ほどけるように』
「…良い歌だな」
「叔父上…!」
豊久の隣に義弘がドカリと腰掛ける。
その手には徳利が握られている。
中身は恐らく上等の芋焼酎だろう。
「お前も飲むか」
「いや、今日は遠慮しときます…の歌、ちゃんと聴きたいんだ。酔ったら勿体ない!」
「フ…餓鬼め」
小さく笑った義弘もへと視線を向ける。
『風となって そっと唄いかけるのは そっと寄り添い 鳴り響く風鈴』
豊久と義弘とは反対側の舞台袖に颯は一人佇んで妹の歌を聴いていた。
今日の為に妹の選んだ歌は四国で教わった鎮魂歌。
儚いこの歌をとても穏やかな笑みで歌う妹はこの世の者とは思えないほど美しく見えた。
透き通るその声はそっと心に寄り添ってくれる。
何も出来なかったと泣いていた村人へ。
家族を守れなかったと嘆いていた兄へ。
領民を救えなかったと悔やんでいた若き領主へ。
どうか自分を許してと伝える、死者からの言葉。
『ゆっくりと 消えてゆく』
「父上、母上、姉上…見ていますか、はちゃんと笑って歌っています」
星空に向かいポツリと呟いた。
きっとこの鎮魂歌は死者の魂を鎮める歌ではなく、残された者の魂を前へと導く歌。
だからこそはこの歌を選んだのかもしれない。
「ありがとう、…」
皆が前を向いて、未来へと進めるように。