第12章 *内緒話 feat.氷室
斜めの席、というのも、近いようで意外と悩みの種だったりする。
そう、例えば、今の私みたいに。
「氷室〜、数学が壊滅的だよ〜!」
「あはは、残念。俺は得意だから低くはないよ。」
「ええっ!裏切り者が…ッ!」
隣の子と仲良く話してるのを見て、辛いと思ったりとか…ね。
一方的な恋だし、私に氷室くんを束縛する力はないけど…。
でも、片想いでも恋は恋だし、ヤキモチだってする。
するだけなら、相手に迷惑をかけないなら、別にいいと思うんだ。
「……はぁ…。」
気づかれないように小さくため息をついて、返ってきた数学のテストを見る。
氷室くんが得意だって聞いたから、敵わないとは思ったけど、頑張ったのに。
結局話せず終いだった。
プリントをファイルにしまって、友達と話しにでも行こうと、立ちあがる。
けど、意外にも向こうから話しかけられ、その人は話そうと思ってた友達ではなかった。
「遠野さんは、数学のテストどうだった?」
イスに横向きに座って、こちらを振り向く氷室くん。
不意打ちと、相手が氷室くんだったという合わせ技で、私の肩が跳ね上がってしまう。
「っ!!…っの、ひ、氷室くんには敵わないけど…いつもよりはよかった…かな。」
「あの」の「あ」が抜けたり、変な間が多かったりしたけど、氷室くんはどうやら気にしてないみたい。
「そうなんだ、よかったね。」
「あ…ありがと…っ」
満面の笑みに顔が熱くなる。
下を向いて俯いた私は、氷室くんが立ち上がった音で顔を上げた。