第5章 *恋の温もり feat.伊月
それからは、ダジャレもちょこちょこ挟みつつ、バスケの話を聞いていた。
楽しそうに話す伊月くんを見ていると、私まで楽しくなってくる。
難しい言葉は分かりやすい言葉に変えてくれたし、部員の面白い一面とかも聞かせてくれて、本当に楽しそうだなぁと憧れた。
…と、話の途中で、突然冷たい風が吹く。
「くしゅっ!び、びっくりした〜…。」
思わず私もくしゃみをしてしまった。
風邪ひいてないよね…?
何気なく心配になった私だけど、それよりもずっと心配してくれたのが、隣を歩いていた伊月くんだった。
「遠野さん、寒い?俺のコート貸そうか?」
人は自分より他人を心配するものなのかもしれないけど、その言葉の半分以上は、伊月くんの優しさでできていた。
「いっ、いいよ!伊月くんの方が寒くなっ……っくしゅん!」
それに対して、くしゃみのタイミングが最悪な私。
伊月くんが風邪をひくのは避けたいと思って遠慮したのに、台無しだった。
「ほら、やっぱり。無理しないで?遠野さんの家ここからそう遠くないし、それくらいの距離なら平気。」
優しく言いながら、コートを脱ぎ、私に着せる伊月くん。
私も一応フリースを着ていたので、温かさが二倍になったような気がした。
「遠野さんが休んだら……悲しいよ。」
「だから、ね?」と言って微笑む伊月くん。
コートには伊月くんの温もりが残っていたけど、もっと別のところも温かくなった気がした。
ううん、むしろ熱いくらい。
何だろう…熱でもあるのかな。
くらくらしちゃうよ。
「伊月くん。」
「ん?」
「…伊月くんも、風邪引いちゃダメだからね。」
優しく注意するような口調でそう言うと、ぱちくりと瞬きを繰り返した後、伊月くんはあははっと笑う。
「じゃあ、約束だね。」
「…うん。約束。」
そう言って、小指を絡ませ合う私たち。
小指から伝わる小さな体温を感じながら、これが恋なのかな…なんて、ふと思った。
*恋の温もり*
たとえ何気ない行為でも、
恋心というのは、
簡単に温まってしまうんです。