第5章 *恋の温もり feat.伊月
久しぶりに一人でお出かけを楽しんで、そろそろ帰ろうと思った頃のことだった。
人混みの中に、ふと見たことのある背中が見えて、思わず駆け寄る。
「伊月くん、伊月くん。」
「え?あっ、遠野さん!」
「こんにちは〜。」
私が呼びかけると、その人が振り返って、伊月くんだということを確認できた。
相手がクラスメイトだとわかると、にこっと嬉しそうな笑みを浮かべる伊月くん。
「伊月くん、今一人?」
「うん、たまには一人もいいかなって。今帰るとこなんだけど、遠野さんは?」
「あ、私も今帰ろうとしたの!ふふ、奇遇だね〜。」
「…じゃあ、一緒に帰る?っていうか、家近くだし、そういうことになるよね。」
なんとなく、その場の流れで。
断る理由もなかったし、普段こんな機会はないから、一緒に帰ることになった。
とはいっても、話すことが特別多いわけでもなかった私たち。
いざこういう状況になってみても、何を話せばいいのか迷ってしまう。
でもやっぱり、趣味の話が一番だよね。
そう思って、
「伊月くんは、バスケ部なんだよね?今どんな感じ?」
バスケについて訊いてみることにした。
伊月くんはバスケが大好きで、一生懸命に部活動をしていると聞いたことがあるから、この話題なら沈黙はまずないと思う。
「あー…。俺、バスケについて話すと止まらなくなるけど、大丈夫?」
「うんっ、全然いいよ!っていうか、ぜひ聞いてみたいな。」
「そっか、ありがとう。」
そう言って笑った顔は、女子に人気のクールな見た目とはまた違う、無邪気な子供のような表情だった。