第1章 少女01
「ど、どうぞ。」
ひょこと黒子テツヤが顔を出し、「着替えておいてください。」とだけ言うとぴしゃりとドアを閉めた。
彼はあんな風にいつも無表情なんだろうか、きっとそうだろう。声にも起伏がない感じがする。単調、というのだろうか。漫画の中でも、己の存在感の薄さを使った"ミスディレクション"という技を使うが、あの技を使うための特徴のなくして逆に特徴になちゃっているという・・・あくまで読者目線。
彼の冷たいとも暖かいとも取れないあの態度に困惑をする。やっぱり幼馴染なんかじゃないのか・・?と疑問を胸に抱きながら、近くにおかれた紙袋からたたまれた綺麗な洋服を見つけ、着替え始めた。
よし、と最後のカーディガンのボタンを閉めつぶやく。とてもシンプルな格好だ。花柄のロングスカートに上はブラウス。その上からカーディガン。靴はどうやらローファーを履かなければならないようだった。
(倒れた時、制服姿だったのか。)
ん?てっきり家で倒れたとばかり考えていたがもしかして違うのか?
ちょうどその時、黒子テツヤと先程の看護婦が入ってきた。
「退院おめでとう。もう二度もここに来るだなんて考えてなかったわよ。」
「すみません、よく言って聞かせます。」
「あははは、相変わらず黒子君は親代わりみたいね。お母さん達まだ帰ってこれそうに無いの?」
「はい。先日延期になったそうで家に連絡が入ったそうです。」
「あら・・・。」と心配そうに私を見つめる看護婦。私の親は要にいなくなっているようだ。
・・・・ん?トリップっていうのは、一体どういうものなんだろう。自分という存在がそのまま入るわけじゃなくて、こちらの世界の"私"みたいな媒介が存在するのだろうか。
(・・・・まぁいいや。)
こんな理屈じゃ説明ができないようなこと、ごちゃごちゃ考えていても仕方が無い。早く外にでなければ。
あ、そうだ。現段階で、彼らは私に少しの記憶障害があると思っている。これは使える。
「あの・・・・。」
「?なに?」
「実は、倒れた時のことを何も覚えていないんだけど、私はどこで倒れていたの?」