第1章 Trick or Treat?
「どうしたんだい?木村。ぼーっとして」
「あ、ううん…。何でもない。じゃあ、早速本題に……」
〝トリックオアトリート〟と言おうとしたところで、征十郎に「待て」と、止められる。
「木村はこんな話を知っているか?世の中にはハロウィンは危険な日だと主張する人達がいることを」
「どうして危険なの?」
「彼らは本気で悪魔の存在を信じているんだ。彼らの中では、ハロウィンは悪魔や悪霊が人間界を訪ねて、生きている人の中に入り、次の年に生まれ変わると、伝えられているそうだよ」
「へぇ〜、そうなんだ。征十郎は本当に物知りだね!」
「そこでだ、木村。君は今人間じゃなく、天使だ。このままでは悪魔の僕と一緒になることはできない。それに僕が君にとり憑くことも生まれ変わることもできない」
あれ?
何だか話が変な方向に向いてきてるゾ?
「だから今夜、僕の闇に包まれて堕天しないか…?」
征十郎はそう言って、私の頬をスルリと撫でる。
「うん、分かった。征十郎が重度な厨二病だということだけは、よく分かったよ」
「僕は厨二病ではないよ」
「もっぺん自分の言ったセリフ思い出してお願いだから」
どうやら征十郎の厨二病は回復の余地が無いらしい。
それから「とりあえず、おちゅちゅけ」と説得(?)して、私はやっと「トリックオアトリート」と言わせてもらい、本来のハロウィンを楽しむことができた。
ちなみに征十郎が用意してくれていたのが高級菓子だったことは言うまでもない。
「木村、僕は魔界でいつまでも君を待っているよ」
「あー、はいはい、ありがとね」
最後のセリフまで厨二を拗らせている征十郎を軽くあしらい、私は魔界(赤司家)を後にした。
(あ、「ハッピーハロウィン」言い忘れた)