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あなたへの月【T&B】

第3章 Lost in the city.




 金色の、くるんとはねた髪。赤い革のジャケット。すらりと背が高く、眼鏡をかけていて、歳は20代半ば。
 わたしが持ちうる限りの情報を少年に与えれば、彼はしばし、考えるそぶりを見せた。
「……あの、?」
「あ! あ、すみません……あの、弟さんの、お名前って……?」
 俯く彼の顔を覗き込んで首を傾げると、ハッとした彼は、そんなことを聞いてきた。名前がわかった方が、探しやすいと言うことだろうか?
 意図がわからないながらも、親切な彼を疑うようなことはせず、わたしはバーナビー・ブルックスJr.という名を告げた。
「やっぱり……ええと、少し、待っててくださいね」
「え?」
 予想外の反応。やっぱり、とは、どういうことだろうか。問う間もなく、彼は携帯で、どこかへ連絡を取り始めた。
 電話など、わたしが聞いていいものではないはずなので、少しだけ距離をとる。
「はい……はい。わかりました、それじゃあ銀行の隣の、カフェで」
 それでも耳に入った声に若干の居心地の悪さを感じながら、すぐに通話を終わらせた少年の様子をうかがった。
 彼は離れたわたしに気付くとすぐにそばへと戻ってきて、明るい笑顔でこう告げる。
「バーナビーさん、すぐに来てくれるそうです。あそこのカフェで、待ち合わせになりました」
 言葉と共に彼が指したのは、道路を挟んだ向こう側。可愛らしい雰囲気の、カフェが見える。
「ええと……?」
 どうにも話が飲み込めない。首を捻り、頭のなかを整理していると、くす、と、小さく漏れる笑い声。
 発生源を見れば、少年はハッと申し訳なさそうに謝ってくる。
「あ、す、すみません。えっと、なんだか可愛くって、つい……あっ、や、その、変な意味じゃなくて!」
 とたんに慌て始める彼の方が可愛らしいと思うのだけれど、気のせいだろうか。わたしは二、三度瞬いて、思わず笑みをこぼしてしまった。
「……ふふ。もしかして、バーナビーの、お友達ですか?」
「ええと……は、はい」
 こくりと頷いた彼は、小さくたぶん、とつけ足したけれど、たぶん友達、とはどういうことなのだろう。
「さ、さあ、行きましょう。バーナビーさん、先に来ちゃいますよ」
 誤魔化すように話をそらす彼に、それ以上深く聞くことはしない。はやくはやくと促す彼に従い、わたしはその場をあとにした。


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