第1章 エルヴィン・スミスの野望
「勘だ。平和ボケした彼らに真実を知ろうとする度胸は無い。
でも君は違うだろう?ミケ。
君は広い世界を見たいと思っているはずだ」
「・・・・・・・俺にも度胸は無い」
「違うね。
君はこの世界に順応するために自分を抑え込んでいるだけだ。
一緒に自由な世界を勝ち取らないか?」
そう言ってエルヴィンがミケに手を差し出すと、
彼は逡巡するように固まった。
探るような目でエルヴィンの顔を少しの間見つめたミケは、
意を決したように差し出された手を握り力いっぱいに引く。
予想外の行動に足を踏ん張る事も出来ず、
エルヴィンはミケの身体に抱き竦められるように転がった。
そしてスンスンとミケに己の匂いを嗅がれ、少し動揺する。
「今走ってきたばかりだから汗臭いと思うよ、ミケ」
「あぁ、おまえの匂いが濃厚だ」
「濃厚の方が良いの?」
「匂いは生きるもの全てに与えられていると俺は思っている。
匂いがしないよりマシなんじゃないか?」
ふーん、と感心するようにエルヴィンが頷くと、
ミケは身体を離して眉を寄せた。
「おまえは・・・俺に匂いを嗅がれて不快じゃないのか?」
「匂いを嗅がれるくらい良いじゃないか。
俺は今君の嗅覚にも期待したよ」
迷いなく言われた言葉にミケは目を見開いて驚いたようだったが、
すぐに気を取り直して薄く笑った。