第2章 ナイル・ドークから見た二人
「君は姑息な真似をしないと言っていたが、
黙ってはいただろ?」
その言葉に俺は息を呑んだ。
何でバレてんだ?
口の中が乾いてゴクリと少なくなった唾を飲み込んでいると、
エルヴィンはその答えを教えてくれた。
「ミケはとても鼻が良くてね。
俺達の荷物から犯人達の匂いを嗅ぎとったんだ。
その中に君の匂いは存在しなかった。」
エルヴィンのその言葉に鼻が利くって犬かよ!?と
思いながらミケを見ると、ミケはスンと鼻を鳴らしただけで
何も言わなかった。
「犯人の物証を探している所に君が現れた。
でも君が妙にそわそわしたり目を逸らしていたから
何か知っているなと気づいたんだ。
何か知っている癖にそれを告げようとせず、
偽善のように教科書を見せてくれると言ってくれたから、
俺はそれを利用しようと考えた。
俺達に教えてくれないなら協力してくれたって
罰は当たらないだろう?
ミケに目配せして君の荷物から教科書を抜き取り、
隙をついて犯人の荷物に紛れ込ませたんだ。
何か質問はあるか?」
俺は絶句した。
こいつ程恐い奴は存在するのだろうか?
俺と同い年のはずなのに成熟しきった大人のように見えた。
大人のように汚くて、容赦なく相手を叩き潰す
抜身の刃のような奴だと・・・。
恐ろしくて俺は知らず身体が震えていた。
「ナイル」
突然名前を呼ばれて俺はやっと我に返った。
目の前には顔立ちの整った小悪魔が立っている。
「この事を誰かに漏らしても構わないが・・・その時は
・・・・わかっているよね?座学二位のナイル・ドーク」
二ィィと口角を上げたエルヴィンが恐ろしくて
俺はその場から走って逃げた。
どこに逃げて良いのかわからないまま、
気づいたら俺は兵舎の布団に潜り込んで
ガタガタと朝まで震えていたんだ。