第13章 とある少年の回想録
あの先輩がいなければ、今の俺はいなかった。
中2の夏、俺たちの学校の野球部は弱くて、試合で一切勝つことができなかった。
どんなに練習しても、どんなに勝ちたいと願っても、負けていた。
今までの努力、全てを無駄だと思って部室の裏で静かに泣いた。
「どーせ勝てないじゃないか。頑張ったって、何したって、才能には、勝てない」
「50%」
突然聞こえた声に、俺は振り返った。
「勝つと負けるのどちらかしか結果はないんだから。その50%の為に私達は練習して、努力して、50%を呼び寄せるの。最初から負けると思って試合するのは、つまらないでしょう?」
力強い声に、俺は浮かんでいた涙をぬぐって声の主に向き直った。
「先輩は、先輩のチームは強いから! そんなことを言えるんですよ!」
「男がグチグチ言うな、みっともない! 勝つことを諦めてんなら、そうやって泣きそうな顔なんてしないでしょ!? 騙されたと思って、頑張りな! 私が君の頑張りを見ていてあげるからっ」
その先輩の言葉を信じ、俺は最後まで部活を頑張った。
最後の試合、勝てはしなかったけど延長まで試合は長引いた。今までで一番充実していて、同時に、やめなくてよかったと思った。努力して良かった、と思った。
(だから、本当に良かった)
憧れの先輩がいる、青道高校に入学が決まった。
「……待っていてください、木下先輩」
あの人の隣に立ちたい。