第8章 【沈丁花讃歌】
「ん、はっ……ぁ」
長い長いキスの後、
怒張した筈の自身を
グッと抑え込んで
白澤は告げる。
「紗英……ちゃん」
愛する男との濃厚な口付けに
恍惚としていた紗英は、
トロンとした瞳を返した。
しかし──……
「僕、もう……君と会うのやめるよ」
男が放った一言は
あまりにも残酷で。
女は一瞬にして目の前が真っ暗になる。
「え……?ど、して」
「ゴメン……自分でも
どうしてか分からない」
「い、や……そんなの嫌!」
紗英は無意識に
涙を零して白澤に縋り付いた。
「君と居ると僕が僕で
居られなくなる。
……辛いんだ、凄く」
か弱く震えるその手を
惨痛の面持ちで振り払って
去って行く白澤が、
紗英を振り返ることは
ついぞ無かったのである。