第8章 【沈丁花讃歌】
数刻後──
「……っは、あ」
天国の自宅に帰った白澤は
抑えきれぬ鬱憤を晴らす為に、
独り自慰に没頭していた。
(嫌!白澤様ァ……ッ)
耳に付いて離れぬのは
紗英の泣き崩れる声。
白澤は彼女の手にそうしたように、
脳内を何度も駆け巡る
紗英の泣き顔を振り払った。
「ん、あっ……出……るっ」
知らない
知らない
僕は知らない
恋なんて
愛なんて
そんな不確かで恐ろしい物
僕は──……!
「紗英……っ」
外界に吐き出された男の本音は
薄い紙に虚しい染みを作り、
その運命を終えるのであった。
【八ノ章】
沈丁花讃歌___終