第8章 【沈丁花讃歌】
「そりゃあ痛いですよね。
頭皮が千切れようと
してるんですから」
抑揚を失った鬼灯の声音。
艶のある白澤の黒髪が
ブチブチと切れていく。
「……っ…離、せよ…!」
「先に吹っ掛けたのは
アンタでしょう。売られた
喧嘩は全力で買います」
やめて
お願い
紗英がそう叫ぼうと
口を開けかけた時、
彼女より寸刻だけ速く
檎が上擦った声を上げた。
「お客様方!
こ、これ以上の争闘は迷惑だ!
他所でやっておくんな……っ!!」
勇気を振り絞って
言い放った彼は、
一瞬本気で死を覚悟したと言う。